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見城徹

恋唄         吉本隆明 ひととひとを噛みあわせる曲芸師が 舞台にのせようとしても   おれは信じない   殺害はいつも舞台裏でおこなわれ 奈落をとおって墓地に   埋葬される けれど   おれを殺した男が舞台のうえで見得をきる    おれが殺した男は観客のなかで愉しくやっている   おれは舞台裏で じっと奈落の底を見守っている けれど   おれを苦しめた男は舞台のうえで倒れた演技をしてみせる。    おれが苦しめた男は観客のなかで父と母とのゆうに悲しく老いる   昨日のおれの愛は 今日は無言の非議と飢えにかわるのだ   そして世界はいつまでたってもおれの心の惨劇を映さない   殺逆と砲火を映している。   たとえ無数のひとが眼をこらしても おれの惨劇は視えないのだ   おれが手をふり上げて訴えても たれも聴こえない   おれが独りぽつちで語りつづけても  たれも録することができない   おれが愛することを忘れたら舞台にのせてくれ   おれが讃辞と富とを獲たら捨ててくれ   もしも おれが死んだら花輪をもって遺言をきいてくれ   もしも おれが死んだら世界は和解してくれ   もしも おれが革命といったらみんな武器をとってくれ

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