文化 [mail]bunka@asahi.com 日曜〜金曜掲載 語る — 人生の贈りもの — いなくなっても 触れる思い出 料理愛好家　平野レミ　[14] 　——イラストレーターで夫の和田誠さん(2019年他界)の代表作を中心とした展覧会が昨秋、東京・渋谷で開かれました。 　会場に行くと、五線譜まで手書きの１枚の譜面が飾られてた。ワンコーラスの知らないメロディー。次に詩を見たら･･････あれっ？ 　これって、私のことだ！って。 ♪ だけどちょっぴり寒い 　あなたが帰ったあと 　小さな部屋も広い 　一人だけだと ♪ 　二人が出会って結婚するまでの数日間は年末で、私はラジオの仕事を終えると毎晩、和田さんのアパートに通ってました。私が終電で帰った後で和田さん、ピアノを弾きながら作ったのかな。仕事場で発掘された、結婚話をする前の和田さんの思いがうれしくて、その日は一晩中、眠れなかった。 　つい最近も、和田さんの17、18、19歳の時の日記が計４冊、仕事場から見つかった。思春期だから下半身のことも書いてるはずだと思って、「お父さん、ごめん！」って謝って読んだのよ。そしたらジャズとか映画の話ばっかり（笑）。そうやって和田さんはいなくなってからも私に玉手箱、いっぱいくれるんです。 　——それでも最愛の伴侶を失った悲しみ、苦しみは続く。 　以前、和田さんの親友の黒柳徹子さんに「愛してること、愛されたことをいつも胸に思っていれば、それでいいのよ」って言われて、ずいぶん勇気づけられました。でも、思い出はつかめない。そんな風に思っていたら、樹里ちゃん（長男唱さんの妻で俳優の上野樹里さん）に食事に誘われたんです。合流して、その話をした。そしたら樹里ちゃんが「ほらっ、唱さん、手出して！レミさんの手、握って！」って二人を近づけて。そして唱が私の手を握ったの。グーッて、力強く。 　あんなにもちっちゃかった手が、がっちりした大きな手になってた。ここに和田さんが半分いる、つかめる思い出があるって思えた。うれしかった、心強かった。 （聞き手・高橋美佐子） 　◆次回は児童文学家、角野栄子さんです。