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あきばん★にゅ✦β✦˖°。

【思いは雪のように 音もなく】 今夜はクリスマスか。まあ日本人の俺には関係無いな... 俺は徹夜明けの眠い目を擦りながら仕事場のブラインドを閉めた。 さすがに眠い。暫くソファで横になることにした。 ...どの位眠ったのか、キッチンからする物音で目が覚めた。 彼女でも来てるのか? 俺は喉も乾いていたのでキッチンに向かった。 そこには親父が居た。少し透けている。直ぐにこの世の者では無いと分かった。 だけど怖くはない。 『なんだよ、幽霊でも腹が減るのか?』 『おお!久しぶりだな!』 親父の笑顔。あの時のままだ。 1969年。 アポロ11号が月面着陸に成功し、まだ興奮冷めやらぬクリスマスの夜、親父は事故で死んだ。俺が13の時だ。 『どうしたんだよ?化けて出るほどの急用でもあったのか(笑)』 『まぁなぁ...そんな事より顔、よく見せてくれよ。』 親父のゴツイ手が頬に触れる。 幾つもの暗車を造った職人の手だ。 『でかくなったなぁ...』 『...』 『デコのとこ寂しいじゃねえか(笑)』 『うるせえよwうちは薄くなる家系なんだろ?』 『俺は大丈夫だぞ(笑)』 『親父はハゲるまえに死んじまったんだろう!』 『はーははははは』 『しょうがねえなぁ...』 懐かしい笑い声。 『何か飲ませてくれよ』 『幽霊でも飲めるのか?』 『酒は別物さ。』 そうなのか? 『まぁいいや。何がいい?何であるぜ。』 『芋焼酎くれよ』 『ええ?ビールもウイスキーもあるけどな』 『それがいいんだよ。』 トクトクトク... 用意した二つのグラスに酒を注ぐ。 『乾杯』 『ちげえだろう、メリークリスマスだろ』 『はぁ?』 変な所で洒落ているのは変わらないな。 『じ、じゃあメリークリスマス』 『きしこの夜に。』 チン♪ 『おう、うめぇな~』 いい顔で飲み干す。 『親父、何か言いたい事でもあるのか?』 『ん?ああちょっとな...』 少し間をあけてから話し出す。 『おめぇには苦労かけたと思ってよ。』 『俺より母さんの方が大変だったさ。』 『あいつには頭が上がれねえがよ、子供がいたから頑張れたんだぜ。』 『そんな事ねぇよ』 『いや、親ってのはそう言うもんなんだよ』 『...』 『実はな、これ持ってきたんだ』 親父は水色の縞模様が入った袋からグローブを取り出した。 『お前今でも、あのこきたねえグローブ包みも取らずに持ってんだろ?』 『きたなかないよ。親父の血だぜ...』 『だからよこれ。新しいの買ってきたんだ。』 『ええ?小さいぜ(笑)』 『そうだな(笑)』 子供の頃、野球を始めたいと言った俺のために用意してくれたグローブ。 『どうした?小さくてガッカリしたか?』 『いや、俺に子供でも居たら使わせるのになって。母さんに何か申し訳なくてさ...』 『気にすんなよ。でも孫は特別らしいからな。あいつも孫連れて花見したいって言ってたよ。』 『そうなの?』『ああ。』 親父が酒を飲み干し続けた。 『だけど俺だけ夢叶えてあいつには怒られるかな...』 『何が?』 『だってよ、こうして大人になった息子と酒を飲むのが俺の夢だってよく話してたんだ。』 『へぇ...』

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