【Ｊ】延江 浩 著 幻冬舎 ♦︎ ［感想］ Ｊに一度お目にかかっている。その時まだ若かった私は高名な作家で尼僧、高い教養のあるＪに畏怖の念を抱いた。そんな記憶が甦るなか、85歳でどんな恋をされたのか興味をそそられ、本を読み始めました。 Ｊが人生の終盤に見事な恋に到達するまでには数々の労苦を乗り越えた過去があり、幼い娘を捨て出奔したのは一生の後悔となった。一流の作家になるためには次々と男性と関係を持ち、書き続けた。世俗で生き続けることができずに聖となってその境界を生きた。聖として多くの悩める人々を救ったのも事実。多くの人がＪのもとに救いを求めて集まった。その一方で好色と世間は評した。私も畏怖を抱く一方でそういう印象を持っていた。しかし本の終盤に差し掛かる頃には涙が溢れてきた。好いた男性と情を交わすことは世俗と聖の境界を生きたＪにとっては、ようやく辿り着いた彼岸だったのではないかと思えた。男との濃密な月日を過ごしたＪ85歳は実に見事で鮮やかな恋に落ちた。 世俗と聖の境界を生き「世間」や「常識」を超越したＪの烈烈たる生き方が体の中へ流れ込んでくる。 Ｊにお目にかかった時の経験は私にとって生涯の宝物となりました。Ｊの純愛を素晴らしい小説に著してくださった著者と出版してくださった見城さんに厚く感謝申し上げます。