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乃木坂モーソーショートストーリー
トーク情報- ユーイチ
ユーイチ 齋藤飛鳥
「夏の夜風」
8月15日。今年、晴れて社会人となった僕は、お盆休みに実家に帰っていた。休日も残り2日となった今日、僕は久々に会う高校時代の友達と、昔から行われている地元のお祭りに行くことになった。
18:30。まだ少し明るい空の下を、4人で歩いていた。お祭りが行われている場所に一番近い友達の家に集合して、歩いて向かっていた。高校時代のことを話し始めると、尽きなかった。気が付かと周りが騒がしくなり、僕達の声も大きくなっていた。
夜店が並んでいる。家族連れや友達同士、そして、浴衣を着たカップルもたくさんいる。僕も高校生の頃は、彼女と来たこともある。初めてできた彼女の、初めて見る浴衣姿に、終始ドキドキが止まらなかったのを思い出す。時の経過は早いもので、とうに二十歳を超えている僕達は、ビールを片手にお祭りの雰囲気を楽しんでいた。
4人で様々な店を回り、食欲もそれなりに満たされた頃、前方から2人の女子高生らしい浴衣姿の女の子が歩いてきた。「かわいらしいな」少し遠めを歩いている時は思っていた。しかし、徐々に近づいてくる彼女達を見て、僕はハッとした。左側を歩く、顔の小さな女の子。見覚えがあった。メイクや髪型のせいか、とても大人っぽくなっているが、間違いない、飛鳥だった。
飛鳥は僕よりも6つ年下で、今年で17歳になっている。飛鳥とは家が近所で、歳は離れているが、小さい頃よく遊んでいた。僕は飛鳥を2歳の頃から知っている。飛鳥が小学校に入るまでは、僕も小学生で時間があったこともあり、よく面倒を見ていたが、僕が中学、飛鳥が小学校に入学すると、会う機会もめっきり減ってしまった。そして、高校以降は見かけることすらなかった。僕はそのまま地元を離れ大学に進学し、今年、社会人となった。そのため、飛鳥がどのように成長したのか、全く知らなかった。
飛鳥が小学校に入学する直前の冬、いつものようにおままごとの相手をしていると、飛鳥は突然僕に言った。「あすかちゃんね、おおきくなったらおにいちゃんとけっこんするの!それでね、かわいいおよめさんになって、まっしろのどれすきるの!」僕は「おにいちゃん」と呼ばれていた。突然そんなかわいい告白を聞いた僕はなんだか嬉しくなって「じゃあ約束ね!」と返事した。
あれから10年。今、僕の前に居る飛鳥はすっかり大人の女性になっている。昔から変わらずの小顔っぷりだ。僕は動揺を抑え、友達と喋りながら2人とすれ違った。飛鳥は気付いていないようだった。
ヒュ~…バーーン。今年も花火が打ち上げる。あれから飛鳥とすれ違うこともなく、僕は友達と一緒に花火を見ていた。この歳でも花火を見てきれいだと感じることに少し感動していた。10分ほど花火を見た後、僕達は人気の少ない場所に移動し、1時間ちょっと話をした。皆、社会人として働き始めた今、昔と比べると、話の内容も成長している。主に仕事の話。社会人1年目の新人4人が、会社への不満や愚痴、そしてそれぞれの夢を語り、帰ることになった。帰りは皆ばらばらにそれぞれの実家へ帰って行った。
楽しかった。みんな成長したな。そんなことを思い出しながら家に近付いた時、ふと飛鳥のことを思い出し、飛鳥の家の前を通ることにした。家の明かりは点いていたが、飛鳥が帰っているのかはわからなかった。浴衣疲れるだろうし、もう帰ってるか。そんなことを考えながら家に着くと、誰かが家の前に立っている。薄いピンクの浴衣姿。飛鳥だった。僕は驚いた。なぜ飛鳥がここに。
僕と飛鳥は近くの小さな公園へ行き、ひとつだけあるベンチに座った。真っ暗な公園を月明かりが照らす。静寂の中、僕は切り出した。「気付いてた?」飛鳥は「うん。」とだけ答えた。「久しぶりだね。大きくなったしホントにキレイになったよね。」僕が言うと、「そんなことないよ」と飛鳥は少し照れていた。次に何を話そうか。僕が迷っていると、飛鳥が聞いてきた。「おにい…ちゃん、彼女とかいるの…?」僕はびっくりしたが、「残念ながらいないんだよね。」と笑いながら答えた。「よかった… 」小さな飛鳥の声も、この公園ではハッキリと聞こえた。「え…」僕がボソッと呟くと、飛鳥が僕に言った。「あすかちゃんね、昔の約束忘れてないよ?おにいちゃんは忘れてると思うけど…あすかちゃん、あの約束本気にして今も頑張ってるんだよね。なにやってるんだろうね。」僕は答えた。「僕も忘れてないよ。」
飛鳥がどんな表情をしているのかはわからない。ただ、飛鳥の笑顔が僕の頭の中にはあった。涼しい風が吹いている。しばらくふたりで夏の夜の音に耳を傾けていたが、飛鳥が少し動いた。そして、左肩に少しの重みを感じると、涼しい夜風でさえ、ふたりの間を吹き抜けることはできなかった。