久しぶりにロッキンジャパンを読んだよ🎸
【コラム】桑田佳祐、待望の名バラード“君への手紙”で泣ける人生でよかった
6月にリリースされた『ヨシ子さん』に続く、桑田佳祐、2016年2枚目のシングルが届いた。まず書いておくと、名曲。紛れもない名曲。みんなが待っていた名曲と言ってもいい。クールなダウンビートによって淡々と、時にやるせなく人生が綴られた“ヨシ子さん”をラディカルな名曲だったとするなら、この楽曲“君への手紙”は、桑田佳祐的王道のど真ん中を行く、スタンダードをあらためて規定するような名曲だ。アコースティックギターが優しく爪弾かれるスタートを耳にした瞬間、じわっと涙腺が緩み、「……桑田さん、待ってました」と静かに拳を握るリスナーはたくさんいるはずだ。この曲との出会いがただ嬉しい、というのも正直な気持ちだ。
しかし、昨年、実に約10年ぶりの傑作『葡萄』を作り上げ、4ヶ月に及んだ全国ツアーを通し、あまりに完璧な形で「みんなのサザン」をやりきり、そして今年、還暦を迎えた桑田佳祐が今作らなければならなかった楽曲が“君への手紙”というタイトルであったということ、そして、それが過去の無数の名曲以上に、スタンダードというテーマに向き合い、事実、普遍的な名曲として届けられたことの意味はやはり見過ごせるものではないと思う。
“君への手紙”は明るくメジャーな空気を持った曲でありつつも、ビートルズ“イエスタデイ”へのオマージュとも思える8分弾きのアコギから始まる。生ギター一本の立ち上がり。優しくメロディを綴り始める声。桑田の歌声は、まるで何かを告白するかのように、静かに言葉を連ねていく。
《空を眺め佇む/羽のない鳥がいる/水のない川を行く/櫓のない船を漕ぐ》
さらに桑田はこう続ける。
《波音に消えた恋/悔やむことも人生さ/立ち止まることもいい/振り向けば道がある》――。
昨年のアルバム『葡萄』にあった寂寞の温度、そして、突如届けられた衝撃のシングル『ヨシ子さん』。そこにあったものを、不世出のポップミュージシャンによる「落とし前」、あるいは、人生をサザンオールスターズというこの国最大のポップメディアに賭してきた唯一無二の生活表現者による新たなる季節の訪れであるとするならば――。“君への手紙”もまたやはり、桑田佳祐のリアルな一人称に基づいた人生観が淡く振り返るようなモードで綴られた、まさに「手紙」としての楽曲なのだと感じる。一生に何度も生まれ得ない、一生に何度も作ることのできない種類の名曲である、と感じる。
この楽曲は、桑田の長年の友人である内村光良が監督を務める映画『金メダル男』の主題歌として書き下ろされた。内村からの手紙でのオファーに応えるように書かれた――という説明に即して言うなら、まさに桑田佳祐の今の心情が実直に吐露された手書きの手紙のようだとも思う。そして、それゆえなのか、挫折も栄光も旬も凪もあるひとつの人生を過ごしてきた人間としての、喜怒哀楽すべてをひと言で描きあげてしまうシンプルさゆえの普遍性を極めた、桑田メロディの最高傑作のひとつであるとも思う。様々な季節を越え、今静かな名曲を生み出した桑田佳祐の心境を思うに、これはすべての同時代者に向けられたある種のエールのようなポップソングなのではないか。そんな宿命をこの曲は背負っている、という思いはきっと外れていないと思う。
『君への手紙』は2016年11月23日(水)発売となり、その翌週2016年11月30日(水)には、自身のルーツとなっている歌謡曲を歌った記念碑的ライブを収めた映像作品『THE ROOTS 〜偉大なる歌謡曲に感謝〜』のリリースも続く。60歳となった天才・桑田佳祐とともに迎える、これまで何度も何度も感動を与えられてきた収穫期。この季節を僕たちはどんな思いで過ごしていくのだろう。(小栁大輔)
(ROCKIN'ON JAPAN 2016年12月号より転載)
http://sp.ro69.jp/news/detail/151182
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