ShintaroShintaro5年前 スポットライトは、彼女を照らしていた。彼女は、ステージに立っていた。まだ、お客さんは、いない。開演40分前。私の一番好きな場所が、もうすぐお客さんでいっぱいになる。そう思うと、リハーサルにいっそう力が入った。彼女にとって、この劇場という場所は、全てだった。 メロディーが、聴こえる。マイクを構える。目を閉じる。息を吐き、そして、吸い込んだ。音に、声がのる。私は、歌う。頭の中から曲の世界観が溢れてきて、私の目はその世界を見ている。同時に、客席を見る。今日は、どんな人が来るのだろうか。お立ち台には、誰が来るだろう。ふと、そんなことを考えた。世界観をイメージするのと、客席を見るのと、同時に2つのことが、彼女の中で成されていた。どうしてそんなことが出来るのか、理屈で考えれば成り立たないかもしれない。だが、感覚的に行われていることなのだ。歌の世界観を届ける。私たちの表現を通して、感動を共有したい。彼女には、そういった思いがあった。 彼女の思いは、本気であり、彼女は、魅力的だった。人を惹きつけてやまなかった。彼女の表現には、完成がなかった。いや、完成をしているのに、奥へ奥へと行くようであった。何より、劇場公演を愛していた。誰よりも情熱的に。 劇場のステージに彼女は、立ち続けた。誰よりも劇場公演を愛し、ファンの心に寄り添い、誰かに元気を与える存在になっていった。彼女を見るファンたちから、楽曲になぞらえ、いつしかこう呼ばれるようになった。いや、曲が存在していなくても、文字通り、それがぴったりくる言葉だった。シアターの女神。