#第6回
【高田馬場アンダーグランド】
タイトルは格好よさげだが、ただの呑んだくれの街 高田馬場(新宿区)
そんな場所でカラオケパブの雇われ店長をしていたことがある(既出)。店名は「ルイス」、古びたビルの2階だった。
前の店長が週末の売り上げ全部持ち逃げした後、強欲な女性オーナーが常連客の自分に新店長の話を持ってきた。
水商売の経験があるというだけで。
まぁ営業に穴さえ空けなければ誰でもいいというワケだ。
厨房には「フクちゃん」。実兄が公営ギャンブルの有名なオートレーサーなのにフクちゃんは競艇狂い。ただし、裏メニューのやきうどんは泣くほど美味かった。
ホール担当は自分と「シンさん」。どうやら早稲田の文学部露語学科を中退らしくインテリで紳士的な白髪のゲイ。
カラオケパブの常連客というわけだから自分も歌に相当自信があったと思う。だから客が少ない大雨の平日とかは、ずっと歌っていた。
豆知識としては開店の夕方5時から翌朝の朝5時まで歌い続けると声が潰れて出なくなる。当たり前か。
ある晩、レジの隣に立っていた自分に、カウンターの端に座っていた常連の翔子ちゃん(児童教育(保育士)専門学校生)が話しかけてきた。そっと。
ねぇ店長、前から言おうと思ってたんだけど…
(えっ、これって愛の告白? 俊二君と別れてオレと付き合うってか?てへっ)
なに?
前から言おうと思ってたんだけど…店長の歌、下手だからやめた方がいいよ。
…。
それ以来 自分はマイクを握ることはない。
#男の、涙の落ちる音がした
#第6回
#写真は別のカラオケ店