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幻冬舎箕輪 日報

○ごめんね、おっさん    教祖になれ。信者ビジネスと揶揄されようが構わない。強い言葉で若者を集めて時代を塗り替えるんだ。 『死ぬこと以外かすり傷』の帯には「こっちの世界に来て、革命を起こそう」というキャッチコピーが書いてある。今読み返すと、恥ずかしいし怖い。 でも、この時僕は本当に革命が起こせると信じていた。 こっちの世界の方が楽しいから早くおいでよ。いつまで古い世界にしがみ付いてるんだ。と善意で煽っていた。 次から次に新しいテクノロジーが生まれ変化が速い時代には若者こそが主役だ。僕らは古い世代をひっくり返せる。 さらにNews Picks の当時のキャッチコピーは「さよなら、おっさん」。 僕たちは確信犯的に分断を煽り、それによって半ば強引に日本を前に進めようと考えていた。  しかし当たり前なのだけれど、変化の速い時代は世代交代も速い。 ある日、本屋を歩いていると、若者のカリスマであるコムドットやまとさんの新刊がドドンと並んでいた。そのタイトルは『聖域』。そして帯には「遅ぇよ時代。」 正直、「怖い‥」と思った。 もし居酒屋でやまとさんを見かけたら顔を背けてしまうだろう。 「箕輪、遅ぇよ」と言われてるような気がするのだ。  そんなコムドットのメンバーの一人がイベントに出店していた僕のラーメンを食べにきてくれた。するとその日のうちに、やまとさんからツイッターでDMが届いた。  僕は週刊文春からの電話に出る時と同じくらい手を震わせながら、恐る恐るDMを開いた。  コムドットやまと。 バズることが全て。そのためにはどんな手段も厭わない。チャンネル登録者数こそが人間の価値だと考える冷徹なるインフルエンサー。フォロワー数の代わりに大切な何かを失った新世代。  「はじめまして コムドットのリーダーのやまとです うちのゆうたがお世話になりました😂」  「や、やさしい‥」  おっさんは安心した。そして一瞬でファンになってしまった。時代遅くてごめんなさい。おっさんのせいかもしれないね。 「さよなら、おっさん」と言ってた僕は、驚くべきスピードでその「おっさん」になってしまっていたのだ。 かつて一世を風靡したビジネス芸人仲間の明石ガクトのラジオにお邪魔した。そのお礼に、奢るからメシでも行こうと言われた。  「二人だし恵比寿横丁とか適当に行って飲もうか」  「おいおい箕輪。俺らがエビ横なんて行ったら人が集まってた大変なことになっちゃうよ」  若者たちで賑わうエビ横。明石さんは少し顔を隠しながら席に座る。  しかし一向に誰も集まらない。こっちを見ようともしない。若者の中で不自然に浮く歯茎とロン毛のおっさんペア。 明石さんは少し恥ずかしそうに「このポテサラうまいよ!」と勧めてくれた。2時間くらい飲んでそろそろ帰ろうかと言う時に二人の若者が近付いてきた。  明石さんは「やっぱ来ちゃったよ」と迷惑そうな顔を作った。あからさまに嬉しそうな笑みを浮かべる動画の教祖。  すると若者は「箕輪さん写真撮ってください」と言って明石さんにスマホを渡した。 あの時の明石さんの顔は二度と忘れないだろう。 もう誰も僕らを教祖だと言うこともないし信者が集まったりしないのだ。 追伸、かつて煽ってしまったおっさんたちへ ご無沙汰しております。革命は一切起こりませんでした。そして、こっちの世界もすぐに塗り替えられてしまいました。

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