ユダヤ・キリスト教系の予言において、終末時に「メシア」が出現し、正しき者を救う、というのはひとつのセオリーでもある。だが、この「メシア」の解釈において、『死海文書』は際だっている。なぜなら、はっきりと「メシア」は2人である、とうたわれているからだ。『旧約聖書』の黙示文学のほとんどすべて、或いは「マタイ伝」などにみられるイエスのことばや、「ヨハネの黙示録」などの『新約聖書』の予言においても、終末時に出現する「メシア」は1人だ。ユダヤ・キリスト教の伝統の中で、「2人のメシア」が予言されているのは、『死海文書』が唯一といってもよい。厳密には、「アロンのメシア」という言葉は『旧約聖書』の「レビ記」などにも登場する。が、「イスラエルのメシア」は、『旧約聖書』のどこにも見当たらないのだ。「2人のメシア」…その正体は何なのか?かれらは、破局を迎えた人類に何をもたらすのか?そもそも「アロン」とはモーセの兄であり、モーセとともに、イスラエル人の「出エジプト」を導き、神の名を受けて最初の司祭長となった人物だ。ユダヤ教の祭儀を確立したといわれ、そのためアロンの子孫は、バビロン捕囚以後、代々祭司職を務めたのである。
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