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 誰にも、心がつかれ何もかもが虚しく思える時が、人生に一度や二度はあるだろう。心がおし黙り何をしても動かない。そんな眠れぬ夜を過ごしていたある日、空がうっすらと明るくなり始めた頃、窓を開けると頬をピシャっと叩かれたような、目の覚めるような美しい空が目の前に広がっていた。  夜明け前のほんの一瞬、息づきはじめた陽の光が群青色の空からこぼれ落ち、白い雲を、道を、私を、見える限りのすべての世界を薔薇色に染めつくしていた。こんなに美しい色の光を今まで見たことがなかった。私は思わずカメラを手に取り、薔薇色の光で溢れた空を夢中で撮っていた。  それ以来、空は私にとって特別な存在となり、見たこともない空に時々出逢うようになった。ごく当たり前の日常のなかで、空がこんなにも美しい姿を垣間見せていたことに、私は今まで気づかなかった。灰色に覆われた何の変哲もない空でさえ、不思議な美しさを隠し持っていたのだ。  どんよりと曇った夕暮れ時、やわらかな蜘蛛がゆっくりと空に向かい色を変えていく。そのひそやかな色のうつろいに、私はうっとりといつまでも見とれてしまう。優しげな灰色の雲は、どんな絵の具を混ぜ合わせても作ることができない、あらゆる色を内に秘めていた。  ファインダー越しに空を覗けば、いつでも世の中のすべてから解き放され、神秘に満ちたしずかな天空の世界が広がっている。空が美しい姿を見せるのは、ほんの一瞬。瞬くまに姿を変え時が移りすぎていく。写真を撮りたいというよりも、そんな一瞬の空を、心に入ってきた空を、集めたいと思った。  5年半ほど前に、東京から逗子に居を移した。私の部屋は小高い丘の上にあり、窓から見える景色の半分は空だ。長い竿の網で頭のすぐ上を流れていく雲を捕まえたいと思うほど、空の近くで暮らすようになった。私はますます空の虜になっていった。そしていつの間にか空を撮り始めてから10年以上もの月日が流れ、空の写真は2万枚を超えていた。私は集めた空の写真を見ながら、本を作りたいと思いはじめた。人々の生活は忙しく、こんなに美

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    ウチの庭の、金木犀。
    花が、咲き誇りまくっちょります ©︎ろこ。
    薫りを、振り撒きまくっちょります ©︎ろこ。


    金木犀を見ると、私は小学校の「手洗所」を思い出すんです。

    木造二階建ての校舎に、千人からの児童が通う、マンモス小学校だった、我が母校。
    裏門のそばに、別棟でトイレが建ててありました。
    石の壁に用をたして、下の幅広な溝を流してるいく、小便所。
    もちろん汲み取り式の、大便所。
    風が吹くと、カラカラと音を立てて回るトップエンドがついた、あまり役に立っていそうもない、排気用の煙突。

    母校の、百年からの歴史を物語る、古い古い作りの、「手洗所」の看板も凛々しい、由緒正しきトイレだったんです。

    そのそばに、消臭用も兼ねてでしょう、大きな金木犀が植えられていました。
    秋の盛りには、それはもう甘くて芳しい薫りで、トイレの悪臭を和らげてくれていたんです。


    金木犀で思い出す、もう一つのもの。
    それは、あの曲なんです。

    鳳晶子さんの「みだれ髪」を入れた歌詞から、「明星」を「みやうじやう」と読む粋。
    与謝野鉄幹との道ならぬ恋の、自らの熱情を歌った歌集を持ってくる若さ。
    「あの高速道路の〜」の疾走感は、晶子の熱い歌の引用で、よりその勢いを増すように感じられます。

    一発屋でしたが(失礼)、この曲は、私には忘れえぬ名曲なんです。

    それでは聴いてください、
    キンモクセイで
    『二人のアカボシ』



    ( 。・_・。 ) 53

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    『二人のアカボシ』
    演奏:キンモクセイ
    作詞:伊藤俊吾
    作曲:伊藤俊吾

    夜明けの街 今は こんなに
    静かなのに また これから 始まるんだね
    眠る埋立地(うみべ)と 化学工場の
    煙突に 星が 一つ 二つ 吸い込まれ

    沢山 並んだ 街の蛍たちも
    始まる今日に 負けて
    見えなくなってゆく
    君とも 離れることになる

    あの 高速道路の橋を
    駆け抜けて 君 連れたまま
    二人 ここから
    遠くへと 逃げ去ってしまおうか

    消えそうに 欠けてゆく月と
    被さる雲は そのままに
    二人のアカボシ
    遠くへと 連れ去ってしまおうか


    橋の継ぎ目と 二人に届く
    電波には 懐かしいあのメロディーが
    聞こえてるかい 「みだれ髪」に
    沁みるよう 明星(みやうじやう) 遥か 彼方へ

    見渡せば 青 続く信号機が
    二人の想いを
    照らせばいいのにな
    明日の僕らは 何処にいる

    また 今日も 汚れてく街は
    蝕む煙を 吐き出す
    君の 知らない
    遠くへと 連れ去ってしまおうか

    瞬かない星が 一つ
    夜明けの街に 消えてゆく
    二人 ここから
    宛てのない明日を 探そうか



    僕の決意と 伝えきれない
    想いが 街の音に 消えないうちに

    朝焼けの水蒸気が
    隣の空を彩る
    懐かしいメロディーは
    風と共に 終わる
    君の 髪の毛が 震えてる

    あの 高速道路の橋を
    駆け抜けて 君 連れたまま
    二人 ここから
    遠くへと 逃げ去ってしまおうか

    さようなら 街の灯りと
    月夜と 二人のアカボシ
    最後の想いは
    君が 振り向く前に 話そうか


    夜明けの街

    夜明けの街

    夜明けの街



    ( 。・_・。 ) ♪

    #二人のアカボシ
    #キンモクセイ