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吉田真悟
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No.464 『逃亡者』中村文則著(2020/04/15 幻冬舎) 2020/05/20(5/17読了) 【感想】 読み終えて、複雑で重厚な処理できない感情と少し残念な気持ちが混っている。酷く飢えているからなんだろう、理屈じゃ無くて中村文則をずっと求めていた。今作もいろいろな感覚が制限され、意識、無意識の境目があいまいに翻弄されて狂気とともに魂が見事に導かれていった。 珍しく異国のシーンから始まり、ベトナムやケルンや長崎(浦上地区)の受難の歴史について学んで行くことになる。浦上四番崩れの後の五番目が原爆投下となるなど日本人として知らなくてはいけない大事な歴史である。隠れキリシタンの大弾圧が明治になっても続いていたとは…… 受難という犠牲が宗教を宗教たらしめる、その受難に関わる人間の悍ましさや狂気が戦争では暗く不気味な闇を形成する。ここでは戦争に対する無知を責められ覆い被さられ犯される。アップデートされる歴史に翻弄され正義なんて何処にも無い。 憎むべきは、主人公の人生を弄ぶ絶対悪としての「B」、同じ人間を差別し虐げる狂気(戦争や宗教弾圧、ジェノサイド)、悪にも成れない凡庸な傍観者たち(サイレントマジョリティ)、そして思考停止している私の様な読者か。 宇宙を創り神を殺し歴史を歪める全能の作家が作る究極の悪人の姿がもっと見たいな。 しばらくは聞いたことのないケルン大聖堂と浦上天主堂の鐘の音、熱狂という名のトランペットで吹かれる「うみゆかば」が妄想で鳴り響く。 【物語の展開】 主人公の山峰がドイツのケルンで得体の知れない「B」に追われる。 2年前のアインや「熱狂」という名の悪魔のトランペットとの出会い。 ベトナムの歴史。来日して学費を稼ぐためキャバクラで働くアインとその死。 五十嵐からトランペットを受け取り失意の中ミュンヘンへ、そしてケルンでまた「B」に追われる。 撃たれた「B」から逃げるがデユッセルドルフ空港で再び「B」に待ち伏せされる。(公正世界仮設の話)1カ月の期限でトランペットと「鈴木」の書いた楽譜を用意する様に命令される。 帰国後長崎で執筆開始。 アインの祖先のトネの話(1636年)。大浦天主堂。秀吉の時代からのキリシタン弾圧の歴史。 浦上四番崩れ、岩永マキ。 1945年8月9日の原爆投下。 Q派の会のリーダとの面会。 トランぺッター「鈴木」の手記(1941年~)。「鈴木」の生い立ちや悪魔的トランペットとの出会い、軍隊での狂気、絶望。敗戦。 山峰がジョマルと会う前に「B」に見つかり拉致される。 「N」のエピローグ。 【登場人物】 山峰健次:三十代後半。 グエン・ティ・アイン:ヴェトナム生まれマニラ在住。先祖は17世紀の長崎でスペイン人と日本人の女性の間に生まれた娘? 恵美:山峰の分かれた彼女 高井:タイに住む山峰の友人 佐藤:山峰と同じ大学の准教授、40歳。 五十嵐:ルポライター?トランペットを盗み山峰に託す。 ジョマル:アインと一緒にいた少年 B:謎の組織の人物、常に山峰の先回りをして現れる。 トネ:アインの先祖。日本人の母とポルトガル人の父を持つ? 西倉沙織:Q派の会の女性 鈴木:旧陸軍の悪魔的トランペッター。熱狂という名のトランペットで戦場で兵を鼓舞する。 カンタ:Q派の教祖、伝説のトランペッター「鈴木」の遠い親戚。 ヨシコ:鈴木の元いいなずけ。(旧姓岩永) T:鈴木の認めた海軍のピアニスト。 N:山峰から不幸が連鎖する作家? 【引いた言葉】 ファナティシズム fanaticism 1 熱狂。 2 熱狂的心酔。狂信。 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ケルン大聖堂 欺瞞 ぎ まん だますこと。あざむくこと。 「 -に満ちた言動」 「巧みに他人を-する」 おぞまし・い 【悍▼ましい】 ① 身ぶるいするほどいやな感じである。ぞっとするほどである。 「聞くだけでも-・い話だ」 ② (性格が)強く、激しい。我が強い。おずまし。 サンパギータ(Sampaguita)は、モクセイ科ジャスミナム属の常緑半蔓性低木で、日本では、茉莉花(マツリカ)、アラビアジャスミン(Arabian jasmine)と言われます。原産地はインド。中国雲南省~熱帯アジアに分布しています。フィリピンでは、国賓を迎える際のレイに使われています。サンパギータを利用した香水やソープなども売られていて、マニラの南郊、ラグナ州サン・ペドロ町がサンパギータの産地として知られています。フィリピンの神話で、永遠の愛を誓った恋人の墓の、白い花の葉が、風の中で立てている音がSumpa kita(恋人に永遠の愛を誓うという意味)と聞こえたことから、その花は、それからSampaguitaと呼ばれるようになったと言われています。 遠藤周作 「沈黙」 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/沈黙_(遠藤周作) ヴェトナムの国花は蓮(Lotus) ノイエピナコテーク(ミュンヘンの美術館) https://www.pinakothek.de/besuch/neue-pinakothek モーツァルトバイオリンソナタ 28番第二楽章 モーツァルト《ソナタ》第28番 ホ短調 第2楽章:テ... https://ja.m.wikipedia.org/wiki/公正世界仮説 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/浦上四番崩れ 岩永マキ 没年:大正9.1.27(1920) 生年:嘉永2.3.3(1849.3.26) 明治大正期の社会事業家。肥前国浦上村(長崎市)生まれ。先祖代々の切支丹。明治2~6(1869~73)年,浦上教徒事件で岡山藩に配流され,苦難の生活を送り,帰郷。7年,浦上をおそった天然痘,台風などの災害に際しド・ロ神父と共に救護活動に従事。その際生じた孤児棄児の養育施設(のちの浦上養育院)を,同志の女性数名と共に開き,生涯を孤児養育と救貧に捧げた。 忘れちゃいやヨ 渡邊はま子 https://youtu.be/RT4kO0fh6IM 自涜 じとく ① 自分で自分を汚すこと。 ② 手や他の物を使って、自分ひとりで性的快感を得ること。**。 【参考文献について】 短編集『A』とこの『逃亡者』の中の旧日本軍の残虐行為を全て事実のごとく書かれることは受け入れ難くさりとて反論も出来ないでいる。読むに堪えないおぞましい描写に目を背けてしまった。今回は根拠となる参考文献が示されていて、いつか読んで検証しようと思うが不毛かもしれず憂鬱である。 ・半藤一利「ソ連が満州に侵攻した夏」(文芸春秋) ・吉見義明「従軍慰安婦」(岩波書店) ・吉見義明「日本軍「慰安婦」制度とは何か」(岩波書店)

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  • 吉田真悟
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    No.733 
    『八日目の蝉』角田光代著
    (2007/3/25 中央公論新社)

    2024/05/14 
    (Amazon Audibleで3/19視聴)

    不倫相手の子供を衝動的に盗み出し、数年も連れ回す主人公に徐々に情が移っていくが、いつ捕まるのかと緊張感がずっと続いた。

    母親ごっごに付き合わされるが、決して不快ではない。子を守る母親として主人公の「希和子」になりきり、行く先々で世話してくれる他人の人情に触れ、逃亡生活をハラハラしながら追っかけて、最後は誘拐が発覚して捕まってしまい一旦ホットするも、今度は「薫」(子供)の目線でその後の第二章が始まる。希和子と同じような不倫をしてしまう薫に、またかといった諦めを感じる。

    希和子と薫の最後のすれ違いについても、やきもきしつつ諦めてしまう。
    そこで出会ったなら、お互いを十分に理解できただろうかな?

  • 吉田真悟
    吉田真悟

    No.734
    『キングスマン ファースト・エージェント』
    『キングスマン』
    『キングスマン ゴールデン・サークル』
    3作品、3/20に観覧終了(Amazon Prime Video)

    本気で作った紳士の国の映画だった。
    何度も観たが、痛快で面白い。金をかけているのがよくわかる。
    そして人が簡単に死ぬため罪悪感がない。そこが良い。

    「ファーストエージェント」
    1914年当時(どこまでが本当か私にはわからないが)
    凶悪な「羊飼い」との死闘を終えたオックスフォード公が、
    英国国王ジョージ5世の協力の下、高級テーラー内に国家権力から独立した諜報機関「Kingsman」を作る話。

    ・イギリス国王のジョージ5世、ドイツ皇帝のヴィルヘルム2世、ロシア皇帝のニコライ2世がいとこ同士だったとは知らなかった。
    ・「羊飼い」を名乗る謎の男が世界を混乱させるべく秘密会議を開いていたが、ロシアの怪僧ラスプーチン、女スパイマタ・ハリ、ロシアの革命家レーニンといったそうそうたる歴史上の人物が登場する。後に世界を震撼させるキーパーソンたち。なのでなかなか、スケールの大きい時代がかったスパイアクション映画となっている。

    「キングスマン」
    キングスマンのメンバーの一人が冒頭で死んでしまい、その後任を危険な試験で選抜する。かつて自分の父がメンバーだったエグジーがもう一人の女性と選ばれるが、スマホを使い世界中を暴力的に洗脳する悪と戦うといった超アクション大作である。杖や傘などの独特の武器や防御アイテムが面白い。エグジーの成長と義理の父親との対決に鳥肌がたった。少年が一人前の大人にいきなりなってしまい、まぶしいのである。

    「ゴールデン・サークル」
    麻薬密売組織ゴールデン・サークルの女ボスとの闘いがメインのストーリィ。
    麻薬に仕込んだ毒物により世界中がパニックになるが、すんでところで解毒剤を手に入れて世界を救うというお話。
    米国諜報組織ステイツマンとキングスマンの関係(バーボンやテキーラって太陽に吠えろか?)が近いのか遠いのかいまいちわからなかった。親しい仲間の死がさらっとしていて心に沁みた。

    新作が出たら必ず観るよ。

  • 吉田真悟
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    No.735
    『変な家』 雨穴著(2021/07/22 飛鳥新社)

    2024/07/01 (Amazon Audibleで3/22に視聴) 
    ホラー・サスペンス。
    緻密にデザインされたディテールは凄いの一言。
    本当に怖くなり鳥肌が何度も立ったが、引き寄せられて先を読みたくなる。
    中毒性がある本である。夜に一人では読まない方が良いな。おしっこ漏らしそうだから、映画は観ない(^^)/

  • 吉田真悟
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    No.736
    『変な絵』 雨穴著
    (2022/10/20 双葉社)

    2024/07/01 (Amazon Audibleで3/22に視聴) 
    ばらばらの不気味な話がどう合体していくのか?
    結末を知りたいのだが、恐ろしいし、不気味だし、躊躇しながら先を読んでしまう。一体誰が主人公?犯人?被害者?いびつな絵の意味が分かってくると恐怖が何倍にも膨れ上がる。
    最終章でやっと最初の絵の意味が分かり、主人公が分かって全部つながった。
    どえれー怖かった。
    夏にぴったりの本。

  • 吉田真悟
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    No.737
    『吉原手引草』 
    松井今朝子著
    (2007/3/1 幻冬舎)

    2024/07/01 (Amazon Audibleで3/23に視聴) 
    身請けが決まった遊女・葛城が、幸福の絶頂に突然失踪する。多くの人のインタビュー(3人称多視点)でその事実が明らかになっていく。
    どうも、仇討ちが隠れているし、人情噺でもある。
    よくある形式だが、書くのは大変であろうと思う。
    いきさつを忘れてこの文章を今、書いている。はぁ。

    第137回直木賞受賞作と聞いて気になって古本屋で買った。大変面白かった。

  • 吉田真悟
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    No.738
    『夜と霧』
    ヴィクトール・E・フランクル著(2002/11/06 みすず書房)

    2024/07/01 (Amazon Audibleで3/24に視聴) 
    極限の恐怖でも生還することが分かっていたからなんとか読めたがきつい本だ。
    人間の尊厳やプライドが粉々になったとき、人は何をしだすのか?
    人類全体の負の貴重な体験記録である。子孫に語り継がなくてはならないと思った。
    今日石で追われた人達が明日は別の民を蹂躙する。
    今、ガザで起きていることはこの本とは全く関係ないと思おう。人類の進歩はいつまで止まったままだろう。共通の敵が現れない限り、その連鎖は繰り返すのだろうなぁ。愚かなり

  • 吉田真悟
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    No.739
    『読書という荒野』
    見城徹著
    (2020/04/03 幻冬舎文庫) 

    2024/07/02 (Amazon Audibleで3/25に視聴) 
    読んだはずなのに覚えていないことだらけで愕然とする。見城先生のお祖父様は森鴎外の友人で高名な医者だったそうだ。今更知る驚愕の事実。多分忘れただけなのだが。

    いったん読むと、とんでもなく読みたい本が増えてしまう。いや、前回もピックアップしたはずだが、怠慢である。『罪と罰』、『邪宗門』から読んでみるか。

    そうすると『仮面の告白』、『豊穣の海』、『金閣寺』などはいつになったら読めるのだろうかな。細かく読書計画を立てなくてはならないなぁ。早く読めよ自分!

    読書が荒野になる日まで精進しよう