礼二えもん礼二えもん4年前一月七日寒の雨、考へさせる雨だ。△一杯の酒は甘露だつた、百杯の酒は苦汁ニガリとなつた。清貧に安んじて閑寂を楽しむ、さうなる外はない、それが時代おくれであらうと、何であらうと。何のための出家ぞ、何のための庵居ぞ、落ちつけ、落ちつけ。「身のまはり」三日の夜から今朝まで考へつゞけた、そして或る程度の諦観を握ることが出来たので、掃いたり拭いたり、身辺を整理した。あるのは命だけだ――まだ命だけは残つてゐる。さびしい昼餉だつた、ソバノコだけだつた。