映画 『GENIUS』 『ベストセラー 　編集者パーキンズに捧ぐ』 魂をすり減らし、傷つけ合う〈本当の関係〉 見城 徹 　観ていて身につまされる映画でした。一つの作品を生み出す、そして一人の作家を無名の状態から売り出すというのは、ものすごいエネルギーの要ることで、自分の人生を捧げないといけないぐらいのことなんです。それをやってきたという自負が、僕にもありますから。そして、そのためにできなかったことや、生きられなかった人生もたくさんある。何かを犠牲にしなければ、作家とは付き合えないし、作品はできないんです。そういう意味で、実にクラシカルな〈編集者と作家の関係〉を描いていると思いました。 　編集者と作家のやり取りは、人生を懸けた勝負です。僕は作家に「この登場人物の癖は何ですか？何か癖を入れないと、この人が見えてこない」とか、「この性格に設定した人が、こんなことはしない、言わない」とか指摘しますが、全部、自分の人生観を通してものを言うしかない。正解はないんですよ。だから編集者は常に、自分の人生が問われている。そして、作家にとっては書くことが自己救済であり、生きることそのもの。だから作品を生むことは、その両者の人生が交錯し、ぶつかり合うことなんです。その魂を削ぎ合う感じが、この映画にはよく出ていました。 どんなに面倒くさくて、子供のような嫉妬心を持っていても、いい作品を作る人なら、犠牲を払う価値があります。逆にどんなに人柄が良くても、作品が良くなければ、サヨナラするしかない。トマス・ウルフは自分を持て余していて、自分を全部理解してほしい人。付き合いにくいですよね。でもやっぱり、いい作品を作る人というのは、みんなどこか変なんです。黄金のコンテンツ──というのは、僕にとっては、いい作品か、評価される作品か、売れる作品のことですが──をもたらす人は、どこか過剰だったり、欠落している。そんな人と付き合うのは、本当に魂をすり減らすものです。でも、僕は作家だろうと友達だろうと、なあなあの関係なら要らないと思っています。 　パーキンズは映画の中で、とても冷静沈着に描かれていますが、彼も絶対に、どこか普通ではない。アンバランスな人が好きですしね。そして、バランスの悪い人こそ、自分と折り合いをつけるために、表現することでしか救われないということを知っているわけです。葛藤を抱えて呻いている人には、表現することが必要で、その自己救済のための表現がちゃんとした作品性を持つかどうかというのは、編集者の仕事に関わってくる。僕は、自分もバランスの悪い人間だと思っています。ただ、人や作品を見る目、素晴らしい才能と出会った時の冷静さは持っているつもりです。他の人は同意しなくても、自分しか熱狂していない時でも、「これはすごい才能だ、絶対にブレイクさせられる」と確信した時、その瞬間にが僕の無常の喜びなんです。その瞬間があるから、編集者はやめられない。そして、それがその通りになった時、一番の歓喜がやってくる。それがあるから、もっとやめられない。その繰り返しですよね。パーキンズもきっとそういう、自分を串刺しにするような、背中を稲妻のように走るような官能を、フィッツジェラルドの時も、ヘミングウェイの時も、トマス・ウルフの時も感じたのでしょう。