パーキンズの尋常でない部分を、僕はウルフの愛人のアリーンが拳銃を持ってスクリブナー社に来る場面に見ました。彼女はこう言う。「まだ誰を撃つか決められない。トムか私か、あなたか」。それに対し、パーキンズは銃を突きつけられた状態で、「自殺は過激だし、トムを殺しても仕方ない。残るは私かな」と返す。非常に腹が据わっていますよね。パーキンズの人間性と覚悟が、強く出ている場面だと思います。 　映画の中で、パーキンズが羽目を外して何かをするようなシーンが一度も描かれないのも面白かったですね。確かに、編集者は作家の行きたいところに常に一緒に出かけるものですが、バーにしろクラブにしろ、豪快に遊ぶ作家の横で、編集者はどこか冷めているものだから。もちろん優れた才能に賭し、この無名を何とかして有名に、と奮闘するけれども、単なるナルシシズムで終わったら意味がない。もう一つの冷めた目でそろばん勘定もしていないとダメなんです。とことん付き合う熱狂と、冷徹なビジネス感覚。両極ともいえる矛盾することを常にやっているのが編集者ともいえます。 　結局、編集者は作家と違って、自分で書かずには救われない“業”のようなもの、マグマのようなものは持っていないんです。それを嗅ぎあて、理解するだけの何かは持っているけれどね。トマス・ウルフは、まさにそのマグマのような人で、冷静なパーキンズはそれを冷ます役割。僕が惚れ込み、実際に売れてくれた作家たちも、みんな狂気の人でした。普通にいい人たちは、やはりそこまでいいものは書けない。そこそこのものしかね。その狂気と真っ向から向き合い、やりあうのだから、当然傷も負う。 　文学を作り出す物語を描きながら、この映画そのものが文学となっている。人が生きて死ぬとはどういうことか、どれだけ切ないものか。そこが如実に描かれています。監督や脚本家は、編集者と作家をモチーフにして、人と人との本当の関係を描きたかったのでしょう。傷も負わないなら、返り血を浴びないなら、そんなのは関係じゃない、ということをね。この文学的な映画で、それは見事に成功していると思いますよ。（談） _φ(｡･_･｡ )