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 彼らがいなかったら、たぶん今のぼくはない。  ぼくの人生には、いつもそうやってぼくを助けたり、鼓舞してくれる人がいた。ほんとうに不思議なくらい。  運命論者ではないけれど、でもどこかに料理の神様がいて、ぼくの背中を押してくれているんじゃないかと思うことがよくある。  七十歳になったら、自分のために料理を作るという今回の計画にしても、ほんとうは生まれ変わったら来世で果たそうと思っていた夢だった。それがいろんなことが奇跡的に上手くいって、この人生で実現できることになった。  ぼくは自分を三流シェフだと思っている。  謙遜で言うわけじゃない。 フレディ・ジラルデアラン・シャペルという本物の天才と出会ってしまったぼくには、それがはっきりとわかる。料理人としての経験を積めば積むほど、 彼らの才能に圧倒されるばかりだ。  自分が彼らのようになれるとは思わない。けれど、彼らのように料理に向き合いたいと思うのだ。他のことは何も考えず、ただ食材と向き合って料理を作りたい。  七十歳からの十年間は、それだけをやってみたい。  誰のためでもなく、自分のために料理を作りたい。  どういう運命の悪戯か、フランス料理の寵児とマスコミに持て囃されて、ここまでがむしゃらに突っ走ってきた。何もかもが上手くいったわけではないけれど、三流料理人としてこれ以上はない成功を収めた。  偉大な先人、秋山徳蔵さんは天皇の料理番になった。  ぼくは大衆の料理番になった。  二〇二〇年にスタートし毎日配信しているYoutube チャンネルの登録者数は、もうすぐで四十万人。 皆さまに楽しんでいただけているようだ。  そして最後に思うのは、やはり料理は面白いということなのだ。  この道にぼくを引き入れてくれた青木靖男さん、ぼくをレジオン・ドヌール勲章に 推薦してくれたアラン・デュカスさん、そして「ビストロ・サカナザ」時代からぼくのことを見続けてくれて、この本を書かせてくれた幻冬舎の見城徹さんに深く感謝します。

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眠〝いれぶん〟です。
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