見城徹のトーク
トーク情報見城徹 シンジシンジ 工場街
黄金色の工場街に
煙突が立っている、
厳然と下された有罪判決のように、
煙突が何本も何本も立っている
真っ直ぐに黒々とした影をおとして
ごうごうとけむりをはいている
鉛のおもりを地面に打ちつける金属音が
一定のリズムを刻みながら
遠く遠く 夕焼けに波紋をひろげる
人々はただ 黙々と働いている
もうすぐ5時だ
人々は汗をかいている
すえた鉄の匂いと
少しの煙草と
出がらした3パックいくらのお茶と
長年着ている作業服にしみついたほこりの
匂いとが混ざりあった
静かな労働の年月の汗をかいている
それを茜色に光る腕でぬぐいとり
あるいは
もうもうと熱気を発散する溶鉱炉にしたたらせて
ジュッといわせたりしながら
無心に身体を動かしつづける
今日、自分のなすべきことを
与えられた仕事を
ただ 黙々とやりつづける
沢山の想い 沢山の願い 沢山の不満
悲しみ それら全て 自分の命を含めて
全ての事柄を
意識の奥のもっと奥で享受し又諦め
忘れようと努力しながら
それから
今夜のむたった一杯の酒について
無邪気に心待ちにしながら
働きつづける
人々
食用魚の銀鱗のなべ広がる
夕暮れ間近の居並ぶ工場の屋根屋根
てらてらと目を射るその輝きが
いつの間にかあせる頃
工場街はすっかり
眠りにつく
もうすぐ5時だ
斉藤由貴
「運命の女~ファムファタル~」より