ログイン
詳細
吉田真悟

2017/01/04の先生の投稿 僕が角川書店(現・KADOKAWA)の新入社員の頃から10年間位毎日のように通った飲み屋が新宿ゴールデン街に2軒あった。 1つは[トートの書]、もう1つは[まえだ]と言った。 [トートの書]はコータローと言うボブヘアの謎の美青年が1人でやっていて、のべつ幕無しビートルズがかかり、焼うどんが美味かった。編集者とライターばかりが狭い店内に屯していて、僕は恋人とひたすらサントリーの角の水割りを飲んで朝まで過ごした。 [まえだ]は狭いカウンターの中に名物の前田さんと言うおばさんが1人いて、客に説教を垂れ、怒鳴りながら酒を作っていた。僕は大概は中上健次、高橋三千綱、立松和平、佐木隆三の誰かとつるみ、たまに水上勉や唐十郎、北方謙三とここで酒を飲んだ。編集者、映画・演劇関係者、カメラマン、作家などが多く、どこの誰かも知らない人と激しく議論し、時には殴り合いになった。前田さんから訳もなく叱られたくて、1人でもよく行った。 最近のゴールデン街はどうなっているんだろう?あんなに表現者のエネルギーに溢れ、混沌としていた場所はもう無いような気がする。 僕はゴールデン街で育てられた。 [トートの書]と[まえだ]には今でも借りがあると思っている。

前へ次へ
前略 見城先生
トーク情報