修治のトーク
トーク情報修治 修治修治 【大藪春彦の食卓・第三回目】
「悪い女だ」朝倉は鋭い犬歯を見せて笑うと、京子の乳房に顔を埋めた。
それから一時間後-朝倉は部屋に朝食を運ばせた。
料理を乗せたワゴンを押してきたベル・ボーイは、毛布を首までかぶってベッドに並んでいる朝倉と京子から、わざと視線を外していた。
カーテンを半開きにしたベル・ボーイは、料理をテーブルに並べた。朝倉がベッドに横になったまま五百円札を紙飛行機の型に折って飛ばしてやると、器用にそれを受け止める。
「勝手にやるから放っといてくれ」朝倉はボーイにウインクした。
「かしこまりました」ボーイは出ていった。
朝倉は素っ裸のままベッドに半身を起こした。
「君も食べないと・・・」と言って、横のテーブルに手をのばす。
料理は、三センチの厚さのビフテキとサラダ、それにトマトジュースと黒パンだ。
京子も全裸の半身を起こした。二人は、腰のあたりだけを毛布でおおい、腿の上に料理の皿を乗せて食事にとりかかった。
半分ほど開いたカーテンのあいだから、朝の港が見渡せた。重油と汚水で濁った海も、朝陽を反射して明るい。船上で退屈した船員たちが、望遠鏡の焦点をこの部屋の窓に合わせていたとしても、そんなことは朝倉の知ったことではない。
朝倉はいつものように旺盛な食欲を示したが、京子はあれほどのエネルギーを消費したのにもかかわらず、ビフテキを半分ほど残した。
「僕が片付けてやる」朝倉は、京子の残したビフテキにフォークを突き刺した。
大藪春彦『蘇る金狼・野望篇、P 199以下』(角川文庫、昭和六十三年四十版発行)
自分でも愉しみながら、ベッドサイドの大藪春彦の文庫本を読みなおしてUPしているこのシリーズ。トルコ帰国後は初の【大藪春彦の食卓】の投稿。
今、ベッドに寝転びながら首を左に曲げると・・・蘇る金狼以外に、見えるだけで、名のない男・不屈の野獣・戦士の挽歌・唇に微笑/心に拳銃・・・などが重なり合った文庫本の間に見える。
この本の山はざっと200冊ほどあるから、大藪春彦の作品は探せばもっとある。なので当初始める際に書いた様に、蘇る金狼に限らず他の作品からも食事シーンを引用抜粋してUPしていこう。
このシーンは主人公が情事の後に、ホテルの部屋にルームサービスで食事を運ばせるところなのだが〝大藪春彦のほぼ全作品を読んでいる〟と自負する自分は、似た様なシーンが他の作品にも描かれているのを知っている(作品名までは今すぐには分からないけどw)
どの作品も一糸纏わぬ姿の美女が毛布やシーツだけで身体を覆っているところに、ボーイが食事を運んで来て、そういう姿の女性を見てドギマギする様なシーンもある(笑)
伊達邦彦シリーズにもある。おそらくこのシーンは、大藪春彦お気に入りのシチュエーションなのだろう。
五百円札だったり〝ビフテキ〟という言葉が出てきたり・・・と、時代を感じさせるキーワードが登場するが、自分の様な70年代生まれの人間は、子供の頃から当たり前の様に「ビフテキ🥩食べたい」と言っており、家族の誰もが・・いや当時の日本では、どの家庭でもステーキの事をビフテキと、ごく当たり前の様に言っていたはずだ。
一体いつの頃からなんだろうなぁ〜ビフテキという言葉が死語になり、世間ではビフテキに代わってステーキと呼ぶのが当たり前になったのは。
勿論、ビフテキ、ビフテキと言っていた当時の人もステーキという言葉も知っていましたよ。
ビフテキ=ビーフ・ステーキを略して短くした言葉でしょ!って知っていたし・・・と思ったら、これは間違いの様で、どうやらビフテキという呼び名は、フランス語でステーキを意味する言葉「bifteck(ビフテック)」から来ているらしい😅
ところがこのフランス語のbifteck(ビフテック)はビーフ・ステーキのことだっていうのだから、一周回って正しいってことか(笑)
しかし朝から厚さ三センチのビフテキをルームサービスで出してくれるホテルが・・・まぁあるんだろうけど、バカ高いだろうね。ルームサービスってカレーライスでも高いから。
も1つツッコミどころはあって、今ってそうそうどのホテルにも黒パンって置いてないよなw
大藪春彦の主人公達って、よく黒パンを食ってんだよな。これはとりもなおさず黒パンが大藪春彦の好物だからなんだけれど。
大藪春彦の幼少期からの実体験を描いた【荒野からの銃火】にそう描かれているからね。当時、ロシア兵からデッカい黒パンをもらって食べたって。
ちなみにステーキ・黒パン・トマトジュースの組み合わせは、他の作品にも出てくる。つまりこのセットは作者自身の好きな組み合わせだって事だろう。
自分も鯵の開き・納豆・目玉焼・ご飯・味噌汁の組み合わせは好物だ。まぁ、大藪春彦にとってのそういったモノなのだろう。
次の仕事が休みの日、自分の朝食もこれでいってみるか(笑)朝から厚さ三センチのビフテキにサラダ、黒パン、トマトジュースってやつを。
黒パンは小田急デパートにでも買いに行って来るとするか。- 修治
修治 【大藪春彦の食卓・第?回目】
コートを着ていないので、寒風が身にしみる。腹もへった。
ポケットに両手を突っこみ、背を丸めて歩き出した朝倉は久里浜街道を横切って、賑やかな三笠通りの商店街に出た。
大衆的なオデン屋で五合の酒と三百円分のオデンを平らげ、中央駅に歩いた。
大藪春彦『蘇る金狼・野望篇、P281以下』(角川文庫、昭和六十三年四十版発行)
たぶん1年くらい放置していた【大藪春彦の食卓】シリーズだが、さっき自宅で風呂入った後にベッドでくつろぎながら『蘇る金狼・野望篇』をまたパラパラと読んでいたので、久しぶりに投稿。もう、このシリーズは何回目かは忘れた。書いてなかったからね💦
ところで引用した文章だが、ハードボイルドな内容の小説のところどころに、食のシーンを登場させることでリアリティが増して、読書の想像をかきたてる。『朝倉はどんなオデン種を食ったのかなぁ?寒い中、空腹で食べたオデンはさぞ美味かっただろうな。酒は当然熱燗だよな🍶』なんて、自然と主人公に感情移入してしまう。
しかし、う〜ん日本酒五合か…さすが乾いたサラミを肴に、ウオッカを一度に1壜空けてしまう朝倉だけに、酒が強いw
自分もおでん屋行ったら、最初にビール飲んでから、熱燗三合は飲んでるけど、五合も飲むと、流石に酔いがかなり回ってくるだろう。だから三合以上は飲まない様にしている。
朝倉にはこれだけ飲んでもほろ酔い程度なんだろうな、きっと。