三上雅博のトーク
トーク情報三上雅博 見城徹見城徹 静岡新聞の今日の夕刊。僕のコラム「窓辺」の4回目です。
『川奈ホテル』(2019.1.28掲載)
伊豆半島の川奈ホテル。26歳の時、原稿執筆のために石原慎太郎さんを缶詰にしたのが僕の最初の滞在だった。
石原さんは昼はホテル付帯のゴルフ場でゴルフをし、夜は執筆に集中した。その時から僕はすっかり川奈ホテルの虜になった。風景、建物の佇まい、レストラン、全てが今まで僕の知っているホテルとは違っていて、新鮮だった。
その直後に、芥川賞を受賞した村上龍と親しくなった僕は、連載小説を執筆をしてもらうという口実をつけて、年に3回ほど、川奈ホテルに滞在した。実は、村上龍は自宅で原稿は書き終えていたので2人でテニスに熱中した。
当時は幻冬舎を42歳で創業し、ゴルフを始めるなどとは夢にも思っていなかったのでゴルフには目もくれず、1週間の滞在を毎日ぶっ倒れそうになるまでテニスのシングルマッチに明け暮れた。腕前は村上龍のほうが相当に上で、僕はワンセット2ゲームを取るのがやっとだった。夜はフレンチ、天ぷら、ステーキでワインと美食に酔いしれた。そんなことを約2年間続けたと思う。経費は全部会社持ち。行き帰りは村上龍の運転する愛車の白いVOLVOだった。
何もかもを忘れて、ただ身体だけを動かし、酒に酔い、心地よい疲れと共に眠る。
そんな贅沢な体験は後年、村上龍の名作『テニスボーイの憂鬱』として結実する。一つのことに熱狂したことで無駄になることなど何一つない。『テニスボーイの憂鬱』を読み返しながらあの川奈の日々を思い出す。三上雅博 見城徹見城徹 本日の静岡新聞夕刊の僕の連載コラム[窓辺]です。
『755』(2019.2.4掲載)
755というトーク・アプリがある。逮捕され、服役していた堀江貴文が出所して、親友のサイバーエージェント社長・藤田晋と作ったSNSだ。因みに、755は堀江の囚人番号である。2人に頼まれてスマホなど使ったことがなかった僕が、覚束ない手つきで始めてみた。
2回の中断後、2016年2月10日から再開し丁度3年、ウォッチ数も600万近くになる。見知らぬ人たちからの質問に答えるのだが、その中に僕の熱狂的ファンだと言ってくれる「長太郎飯店」というユーザーに気づいた。トークに行くと美味しそうな中華料理の写真をたくさんアップしている。所在地が静岡市清水区だというのも心惹かれ、時間を捻出して高校の同級生を誘って行ってみた。水餃子、油淋鶏、里芋のスープ、ガーリック炒飯、茄子そば…。ごく普通の中華屋なのに出てくる1品1品がとんでもなく美味しい。今や豚まんは全国的に有名で韓国にも進出した。
オーナー・シェフの石田雅也さんは物静かなナイス・ガイ。以後、755で僕を慕ってくれるユーザー達と何度も訪れている。
755は不思議な仮想空間だ。見ず知らずの人たちとネット上で会話し、心が通い合えばリアルな世界でも親しくなって行く。長太郎飯店に出会わせてくれたのも755だ。朝のベッドの上。仕事から仕事へ向かう車の中。寝る前の書斎。かくして僕は、今日も無名だけれども懸命に生きている人たちに想いを馳せながら心を込めて文字を打ち込む。