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[狼生きろ豚は死ね 石原慎太郎]
“豚”とは、個体の掟を放棄した凡庸な人間を指す言葉だと理解はしていました。自己嫌悪と共に、自問せざるを得なくなる強烈な言葉だとも思っていました。
しかし、作品を読ませて頂き、“豚”とはもっと激しく人間存在の苦悩や弱みの本質にまで思考を引き摺り込む、苛烈なメタファーだったと知り、自分の認識の甘さを思い知らされました。
舞台は幕末。主人公は坂本龍馬の用心棒。権力と戯れ、太ろうとする“豚”と、自分自身の内側に潜む“豚”。主人公はこの両方を叩き切った。
何という断腸の思い。何という大いなる“無駄”。若き石原慎太郎さんはこんなにも日本人に刀を突きつけるような作品を書かれていたのか。付き従う女の強い愛にもまた胸を打たれ、しみじみ読み応えのある作品だと感嘆せざるをえませんでした。
改めて思う。この物語の根源は何だ。このエネルギーは何だ。この世に生まれ落ち、挫折し、嫌悪し、すねていた自分を真正面から受け止め、そこから立ち上がる力はどこからくるのか。
幕臣松平帯刀(たてわき)の言葉。裏切りさえも人間の絆なのだと語る。さらに、政治を通して「人間に繋がるのだ」と主人公に迫る。
自ずと心の中で、政治を仕事に置き換え、さまざまな思考が巡った。人生を貫く何かをひたすら追い求める。熱狂という言葉が立ち上がる。豚から離脱し狼になるとはこのような道なのだと、教えて頂いた気がしました。
この作品は、石原慎太郎さんの処女戯曲。初演は1960年。石原さんは当時28才。
その後、日生劇場の創設に尽力された話は書くまでも無いことだが、この作品を生で観たら凄かっただろうなと痛切に思う。
日本の新劇は外国作品ばかり演じているじゃないかと非難した石原さんは、自らこんな作品を書いてみせたのか。恐るべし。
半世紀以上経っても色褪せない、この輝き。この凄み。晩年の石原さんの背中を想像し、作品の核心と重ねてしまい、ひたすら心が掻き立てられ、震えるような気持ちになりました。
石原さんはこの頃を「日本という国の青春時代だった」と[「私」という男の生涯]に記されていた。その頃の情念を想像し、改めて自問自答するしかなくなりました。


