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修治
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時々、仕事後に疲れている時や、仕事終わりの時間と魚屋への仕入れに行く時間に、そんなに間がない時など、店の床に寝袋を出して仮眠を取ることがある。 そんなつかの間の休息時でも、読書をするのは、自分には何よりの楽しみ。 昨夜というか、今日の早朝は開高健の『新しい天体』を寝袋の中で読んでいた。 酒のブラインドテイスティングじゃないが、文章でそれをやったなら、自分はかなりの高確率で開高健の文章は言い当てる事が出来ると思う。 ↓↓↓ 客はさまざまである。ベッコウぶちの眼鏡をかけた重役からGパンの少女まで、誰彼かまわず大きな黒い鍋からたちのぼるおでんの湯気のゆらめきのなかで、ときにワイワイガヤガヤと、ときに孤高寡黙に、食べたり飲んだりにふけっている。 浅黒い顔をした男はブスッとだまりこくったきりで何もいわないが、なじみの客となにかひとことふたこと言ったはずみにニコッとすると、いままで頑固偏屈に見えていた顔に意外なかわいらしさや優しさが浮かぶのである。 これがこの店の当主であるが、先代、つまり彼の父も頑固偏屈で、ブスッとした顔でおでんを煮ていた。股引とも、袴とも、ズボンともつきかねる、奇妙なデザインのものをはいていた。そしてあまりないことだけれど、この店のことをよく知らない客がいて、だされたおでんが半煮えなのではないかというようなことをウッカリ口にだすと、客の顔をチラとも見ないで口のなかでブツブツと何かいうのである。 何をいってるのか、ようやく聞きとれるか聞きとれないかぐらいの小声なのだが、よくよく耳を澄ますと「……俺はおまえらがガキのころからずっと関東煮きをたいてきたんや。俺は関東煮きの王様やねんゾ。王様やねン。関東煮きのことはよう知ってるねン。俺はナ、関東煮きのナ、王様やねン。関東煮きの王様や。」 あらわにののしろうとしないで、いつまでもブツブツと、ゆっくりした口調で、ひとりごとをいうのである。ときに〝王様〟が〝大統領〟になることもあるが、いつもおなじであった。 その横顔は古い日本の男にある目鼻立ちで、白皙、豊頬、堂々としていた。 寡黙でひかえめだけれど、ときに傲然としたそぶりに見えるほどの自信ある痛烈なものをひそめていた。 開高健『新しい天体、P76以下』(新潮文庫、昭和五十一年 三月三十日 発行) 好きな作家の本を読んでいる時の楽しさといったら、何に例えられるだろうか...小説の筋で読ませる作家もいれば、描写の文章そのもので読書を楽しませる作家もいる。 開高健は後者だと思う。『輝ける闇』はテーマとストーリーと描写力が絶妙にブレンドされて醸された傑作だ。 良い文章を読んで寝れた後は、寝覚が良い(笑) 起きて歌舞伎町のCoCo壱で、手仕込とんかつカレーの1辛/ご飯200g/らっきょうとアイスコーヒーを食べて、仕入れに行った。今日、明日の予約も多くて大変だが頑張ろう。酒はしばらくひかえよう...

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修治のトーク
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  • 修治
    修治
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    ふと観たくなって自分が加入しているストリーミング・サービスを調べたら、どのサービスでも観れない…どころか現在、配信しているストリーミング・サービスは皆無らしい。

    こんな名作をどこも配信してないなんてどうなってんだ?!Amazonで4000円前後で販売されてるから、それ買うか...と、思ったらなんとYouTubeで観れた😅
    ただし字幕対応していないのでロシア語版しか無いけれど。

    4
  • 修治
    No funNo fun

    アイドル主演の漫画実写化や、救いのない人間ドラマならいくらでも配信サイトにあるのに、どうして自分が観たい作品はレンタルか、4,500から10,000円のセルDVD、下手すると海外版DVDしか見当たらないものもあり、非常に切ない思いをしている。

    こちらの作品は『誓いの休暇』というソビエト映画らしく、友人は三年ほど前にレンタルで観たことあるといっていた。
    うーーん、観たい。

    他にも
    『いちご白書』
    ベルイマンの『秋のソナタ』
    タルコフスキーの『ストーカー』や『惑星ソラリス』
    オーソンウェルズの『黒い罠』
    アンジェイ・ワンダの『灰とダイアモンド』
    などなど

    Nも、AからZ、日本一を誇るUなんちゃらにもない。
    近所のツタヤは閉店したし、残るはWOWOWのリクエストかBS-NHK待ちしかない。

    国会図書館でも国立映画アーカイブでもいいから、そろそろサブスク始めて欲しいんだけど、でも無理だろうな。

  • 修治
    修治

    自分が中高生の頃は、例えば読書でいえばドストエフスキーやトルストイを読むのは必須の〝たしなみ〟だったわけです。
    これらを読まずして読書が好き...などと言うと『へぇ〜君読んでないの?』なんて言われたり、黙ってそっぽ向かれて小さく笑われたり😅
    こういった一種、因習の様なものが良いか悪いかは別にして...本当に良いものは押しつけの様な形であっても経験させる。

    要するに有名作家の古典の様な作品は名前が先行して、何となく小難しそう、といったイメージなのです。実際に自分もそうでした。
    そしてコレを払拭させるには、まず読んでもらわなくては始まりません。
    読めばその内容は素晴らしく、それが何十年前、100年前に書かれたものであろうと、その中身は全く色褪せておらず、現代の私達が考え・思い悩む事と何も変わらない事に気づきます。

    映画『Баллада о солдате』原題は兵士のバラード。邦題は『誓いの休暇』はソ連時代に制作された映画で、映画好きな人でも知る人は少ない埋もれた名作です。
    人に強く薦める事はありませんが、自分は特に好きな作品で、ロシア人気質をよく観てとれます。
    そして上に書いたドストエフスキーの作品の様に、ソ連・ロシア映画が好きな人ならば必須のたしなみといえる映画なのです。

    私はこの作品と『Москва Слезам Не Верит/モスクワは涙を信じない』『ЧАСТНАЯ ЖИЗНЬ/解任』の3作品が特に好きで、この作品達でロシア語のトレーニングを昔よくしました。
    あぁ、こんな風に発音するのか...とか、こういうシチュエーションで言うフレーズなんだな...なんて。
    ちなみにЧАСТНАЯ ЖИЗНЬは邦題は解任となっていますが、私生活という意味のロシア語です。モスクワは涙を信じない、はロシア語そのままです。
    元々ロシアの格言ですからね。〝泣いていたって誰も助けてはくれない〟というロシア人が好きな格言です。

    私もべガーズさんと同意見で、こういう作品を配信で観れないならば、どんどん日本の文化的教養の水準は、下がる一方だと思います。いや、もうびっくりする位に低くなっていますけれど。