見城徹見城徹2021年02月28日 09:30[すばらしき世界]の原作者、佐木隆三とはたくさん仕事をし、よく飲んだ。新宮が故郷の中上健次に誘われて荒くれ者の火祭りとして知られる和歌山県新宮市神倉神社の「御燈祭」に佐木隆三と参加したことがある。部落ごとに集まった男たちが松明を持って白装束を身に纏い、お神酒を飲みながら山の上にある神倉神社を目指す。その道中、他の部落と小競り合いが多発し、松明で殴り合う。神倉神社に着くと夜になっている。境内にひしめき合った男たちは一人一人が持つ松明に火を点けて、合図と同時に一気に山を駆け下りるのだ。この祭りで佐木隆三がボコボコにされた。中上健次と僕は助っ人に入って応戦したが、酩酊していた佐木隆三は血だらけで大の字になってしまった。幸い大事には至らなかったが、松明で殴り合いながら殺されるかもとはっきりと覚悟した。翌日、怪我だらけの佐木隆三は殴り返しに行くと喚き散らしたが、そもそもどの部落ともみ合い、襲撃されたのかも暗闇だったのではっきりとしなかった。しょうがないから佐木隆三、中上健次、僕はひたすら酒を飲んで一日を過ごした。今となっては忘れられない思い出になったが、中上健次、佐木隆三はとっくの前に逝ってしまった。2人ともう一度酒を酌み交わしたいと疼くように思う。新宿ゴールデン街で3人でよく飲んだものだ。あれから40年以上が経ってしまった。夥しい疼きを抱えて人は死というゴールに向かって行く。 映画[すばらしき世界]が楽しみだ。
見城徹6時間前見城徹見城徹窓を開けると風が冷んやりとして気持ちがいい。木々が光を浴びて葉を揺らしている。遥か向こうには青い山々が聳え、空は高く澄んでいる。北国の夏。晴れた日には永遠が見える。宇宙の時は悠久として流れ、止むことはない。僕は宇宙の一部として今この一瞬にここに在る。朽ちて果てるのは万物の定め。永遠の中の一瞬。ここに在ることの奇跡を想う。人生は一夜の夢。100年後から見たら今の僕の悩みなど何ほどでもない。だから、振り切る。だから、この一瞬を狂って生きる。 3031277