「祖父の船に乗ったら出世する」
周りの船乗り達の間ではそう言われていた。祖父は常に命をかけて職務を真っ当していた。港に着いたら乗組員達を遊びに行かせ、自分だけは船に残り整備や点検を怠らなかった。皆の命を預かっている祖父はまさに毎日が命がけだった。
そんな祖父にも遂に借金返済の目処がつき、船を降りる決心をした。その頃まだ5歳くらいだった末っ子の僕の母に「なんのお店がやりたい?」と良く聞いてくれたらしい。
ずっと海に出て、いつも家にいない父親がずっと一緒にいられるなんて夢の様な話だったに違いない。
これから家族揃っての幸せな生活が始まろうとしていた。
前へ次へ