日本人に人気の三国志などは一切読まない自分だが、高校時代に読んだ詩がきっかけで、北宋時代の高名な詩人にして政治家である蘇軾(そしょく)の漢詩が好きになった。
大人になり歴史書などで蘇軾の業績、政治家として、また詩人、書家としてのエピソードを知るにつけ、そのお上に媚びない生き方、逮捕&厳しい取り調べ、左遷ばかりの人生にもへこたれず楽観的に明るく振舞う生き方や、ユーモアある詩がますます好きになったのだが、好きになった理由の一つに〝蘇軾が料理の名人でもあった〟事が多いに影響している。
なにしろ自分は中華料理の東坡肉(トンポウロウ)が大好物。
この東坡肉だが、蘇軾が考案したとされ、料理の名前は彼の号である「蘇東坡」に由来している。
正確には、東坡肉の原型となる紅焼肉(ホンシャオロウ)の調理方法を考案したのが蘇軾とされている。
中国では当時豚肉は、それ以前は皇帝も普通に口にする食材だったのだが、蘇軾の時代、何故か不浄な肉とされ、蘇軾が左遷されていた黄州でも、猫の餌にされていたくらい。
実際のところ、不浄でもなんでも一般市民が食べる事を禁じられていたわけではなく、肉を柔らかく美味しく食べる術が知られていなかったからだけ、というのが本当のところだったようだけれど。
蘇軾が赴任(というか島流しだけど)していた黄州の豚肉は、良い豚だったにも関わらず、金持ちは不浄だと言って食わず、貧しい人達には上手に調理する術もなく、猫の餌に出来るほど激安だったらしい(蘇軾も、価賎にして糞土に等し、と詠っている程)
そこに目をつけて、その料理の腕前を発揮して、歯の弱い老人でも肉を美味しく沢山食べられる様な調理方法を生み出したのが蘇軾。
下の漢詩は、自分が特に好きな詩である。
ところで、日本の豚の角煮と東坡肉の違いは、調味料の違いがあるのは当然として、豚肉に皮が付いているか、いないか?の違いが大きい。
皮付きでなければ東坡肉とは言えない。豚の三枚肉は是非皮付きでの調理をお薦めします。
黄州好猪肉
価賎等糞土
富者不肯喫
貧者不解煮
慢著火
少著水
火候足時他自美
毎日起来打一盌
飽得自家君莫管
黄州の好猪肉
価賎にして糞土に等し
富者はあえて喫わず
貧者は煮るを解せず
慢に火を著し
少しく水を著さば
火候足るの時 他自ずから美ならん
毎日起来して一盌を打ち
自家を飽得するも君管するなかれ
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